実無限と可能無限



2015/8/3
[リスト]
公開日 2014/9/7

実無限と可能無限でカントールの対角線論法を考察します。

実無限と可能無限によるカントールの対角線論法の考察 [2015/6/26]


0.999... = 1
0.999... = 1

実無限

0.999...=1

実無限について説明するために、次の等式を考えてみましょう。

0.999... = 1

右辺の方が左辺より大きいと感じる方もいらっしゃると思います。しかし、これは正しい等式です。 次のように計算します。

次の値を定数 S とします。

S = 0.999...

変数Sを、その変数Sの10倍から引いてみましょう。

\begin{align*} 10S&=9.999\cdots \\ -)\qquad S&=0.999\cdots \\ 9S&=9 \end{align*}

両辺を 9 で割ります。

S = 1

そのため、次の式が成立します。

0.999... = 1

私は、はじめて上記の式を見たとき、数字の 9 が無限に並んだ状態を想像しました。 数字の 9 が無限に並んだ状態を「実無限」と呼びます。 それは、私の想像力に大きな負荷をかけました。 数字の 9 が無限に並んだ状態を想像することは非常に困難です。 もっと簡単に、この等式を理解する方法はないでしょうか? そこで、極限という概念を導入します。

極限

ここで次の数列を考えてみましょう。

\begin{align*} a_1 & = 0.9 \\ a_2 & = 0.99 \\ a_3 & = 0.999 \\ a_n & = 0.999\cdots 9 \end{align*}

その数列は限りなく値 1 に近づきます。しかし、決して値 1 には到達しません。

an < 1

この決して到達しない値 1 を数列 an の「極限値」と呼びます。 極限値とは、決して到達しない値なのです。 極限を取ることで、極限値を得ます。 数列の極限値を次のように記号 lim で表現します。

$$ \lim_{n \to \infty} a_n = 1 $$

文字列 0.999... を数字ではなく、純粋な記号として解釈し、次のようにlim記号で定義します。

$$ 0.999\cdots = \lim_{n \to \infty} a_n $$

すると、次の等式が成立することがわかります。

0.999...=1

このように考えれば、数字の 9 が無限に並んだ状態を想像する必要はありません。 まず、左辺として、有限の数列 0.9、 0.99、 0.999 を想像します。 次に、その数列が、決して到達しない値 1 を式の右辺に書けばよいのです。

これは等号概念の拡張とも解釈できます。 ある値と、その値に限りなく近づく数列の間の新しい等号記号を定義したことになります。 このような新しい等号記号を定義しても、数学上の矛盾は生じません。

イプシロン-デルタ論法

極限に関する説明では、ある数列がある値に限りなく近づくと表現しました。 この表現は、実は、もっと単純な概念の組み合わせで定義できます。 私たちは、極限をもっと単純な概念の組み合わせで定義できます。 その定義をイプシロン-デルタ論法と呼びます。

値 1 に限りなく近づく数列 an をlim記号で次のように表現しました。

$$ \lim_{n \to \infty} a_n = 1 $$

このlim記号をイプシロン-デルタ論法で次のように定義します。

任意の小さい ε > 0 に対し、ある大きな N が存在し、 すべての n > N で常に |an − 1| < ε とできる。

これはlim記号の定義です。具体的な数字で表現すれば次のようになります。

$\varepsilon=1\ \ \ \ \ $に対し、N = 0 が存在し、$n=1>N$ で、$|a_1-1| < 1\ \ \ \ \ $となる。(a1 = 0.9)
$\varepsilon=0.1\ \ $に対し、N = 1 が存在し、$n=2>N$ で、$|a_2-1| < 0.1\ \ $となる。(a2 = 0.99)
$\varepsilon=0.01 $に対し、N = 2 が存在し、$n=3>N$ で、$|a_3-1| < 0.01 $となる。(a3 = 0.999)

上記を見ると、まるで後手必勝のゲームをしているようです。 相手がどんな誤差 ε(イプシロン)を出してきても、それに勝てる N を用意できるのです。

上記の論法では、イプシロンとエヌを使っていますが、 本来のイプシロン-デルタ論法ではエヌではなくデルタを使います。 そのため、その論法はイプシロン-デルタ論法と呼ばれています。

小さいイプシロンに対して成り立てば、大きいイプシロンでも成り立ちます。 したがって、形容詞「小さい」は実は必要ありません。 N の形容詞「大きい」も不要です。副詞「常に」も不要です。 数学の思想によれば、私たちは定義を可能な限り簡潔に記述する必要があります。 そのため、一般には極限を次のように定義します。

任意の ε > 0 に対し、ある N が存在し、すべての n > N で |an − 1| < ε とできる。

上記の表現に慣れるまでの間は、 形容詞「小さい」と「大きい」、副詞「常に」をともなう表現の方が、理解しやすいと思います。

ヒルベルトの無限ホテルのパラドックス

実無限の不思議さを示すパラドックスとして、「ヒルベルトの無限ホテルのパラドックス」があります。 そのホテルは満室であっても、新しい客のための部屋を用意できます。 1号室の客を2号室へ、2号室の客を3号室へ順に移せば、1号室を空けることができるからです。 新しい客は、その1号室に泊まることができます。

カントールの対角線論法

カントールは対角線論法で実数は数えることができないことを証明しました。 証明の詳細は次の記事で説明しています。

可能無限の立場

ここで次の数列を考えてみましょう。

\begin{align*} \pi_1&=3.1 \\ \pi_2&=3.14 \\ \pi_3&=3.141 \end{align*}

この数列の極限は次のとおりです。

$$ \pi = \lim_{n \to \infty} \pi_n $$

実無限では、円周率は定数 π です。 すべての桁の数字が決まっています。

可能無限では、円周率は関数 π (ε ) です。 その桁数は、イプシロン-デルタ論法の変数イプシロンに依存して変化します。

ゼノンのパラドックス

実無限の不思議さを示すパラドックスとして、「ゼノンの二分法のパラドックス」があります。

地点 A から地点 B へ移動するためには、その中間地点に到達しなければならない。 その地点へ到達するためには、さらにその半分の地点に到達しなければならない。 したがって、地点 B に到達するためには、無限個の地点を通過しなければならない。 しかし、それは不可能であるため、地点 A から地点 B へ移動することは不可能である。

可能無限の立場では、地点 B へ到達しません。 なぜなら、空間の分割が終わらないためです。

実無限の立場では、地点 B へ到達します。 なぜなら、実無限の立場では、空間を無限分割可能なためです。 そこで、私は操作を追加します。

中間地点に到達するたびに、十進数を数える。その十進数の一桁目を手帳に書く。 手帳に自然数を書く時は、それまでに書かれていた数字を消してから書く。 したがって、手帳には常に一桁の数字が一個だけ書かれる。

地点 B 到達時に、最後の数字が存在するなら、それは無限ではありません。 地点 B 到達時に、最後の数字が存在しないなら、手帳にはなにが記入されているのでしょうか?

しかし、上記の新しい思考実験をもってしても、実無限に矛盾は生じません。 なぜならば、実無限では、距離を無限分割した各位置から各位置への移動は同時に行われるからです。 最後の数字は存在しませんが、地点 Bに到達します。

実無限は実在するか?

無限は、実無限、または可能無限を意味します。 現在、数学の主流は、実無限です。 実無限に矛盾はありません。しかし、実無限は物理的に実在しないと、私は推測します。

量子数論

可能無限では、円周率πは誤差イプシロンの範囲で不確定です。 これは量子力学での位置と運動量が不確定となることに似ています。 そこで、不確定な数をともなう数学を量子数論または量子数学と呼びたいと思います。 量子数論は次の記事で説明しています。ご参考となれば幸いです。


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