エヴェレットの多世界解釈の論文

 

 

2019/04/07

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公開日 2019/02/11

K. Sugiyama

 

多世界解釈の元になったエヴェレットの論文は翻訳されていないため、読んだことがない方も多いと思います。そこで彼の論文の概略し解説することにしました。本解説は多世界解釈の基本事項を理解するうえで役立つものと考えます。

 

元の論文の4章と5章に節は存在しませんが、分かりやすさを考慮し章の内容を節で分離しました。以下、各節について簡単に解説します。

 

4.1 相対状態の定式化

相対状態とは、観測者と観測対象の複合系において、観測者からみた波動関数を複合系から切り取ったものです。次の図のように系S1k番目の固有状態から見た、系S2の固有状態の番号jについての波動関数が相対状態となります。

多粒子波動関数

1: 相対状態

 

4.2 フォン・ノイマンの測定過程

フォン・ノイマンの測定過程とは、測定対象物の位置によって、測定器の針が移動する過程のことです。次の図のように最初、測定器の針の位置rの波動関数はゼロ付近に集中していますが、測定によりqの値に依存して広がります。

多粒子波動関数

2: フォン・ノイマンの測定過程

 

5.1 観測者の記憶系列

観測者の記憶系列とは、一連の観測結果が記録された記憶装置のことです。この記憶装置は波動関数のように重ね合わせられるため、量子コンピュータの量子ビット列を思い浮かべるのがよいと考えます。次の図のように、量子ビットをn個並べ、測定するたびにその結果を量子ビットに記録します。その結果、観測者の記憶系列は波動関数となります。

多粒子波動関数

3: 観測者の記憶系列

 

5.2 観測者の分岐

記憶系列の異なる観測者は、異なる経験をしてきました。それは観測者が分岐したことを意味します。分岐した観測者は各世界に同時に存在することとなります。

 

5.3 測度の導入

エヴェレットは、1957年に発表されたグリーソンの定理と同様の方法で測度を導入しました。この測度を一意に定義するには、基底を一意に選択する方法が必要です。しかし、スピンなどでは適当な方法のないことが、1990年のエイドリアン・ケントの論文で批判されました。(多世界解釈の基底問題)

 

5.4 測度と確率の対応関係

記憶系列の測度というものを考えた場合、測定回数を増やすと、ある特定のケースを除き、ほとんどのケースで測度がゼロとなります。残ったある特定のケースでは、分布がボルンの規則と一致するという論法をエヴェレットは採用しました。確かにこの論法は正しいですが、測度の物理的意味が明確でありません。実際、1990年のエイドリアン・ケントの論文ではこの点を批判しました。(多世界解釈の確率問題)

 

5.5 観測結果の相関

EPRのパラドックスを提示し、観測者の記憶系列がそれと矛盾しないことを論証しています。

 

本解説は、次のサイトで公開されているエヴェレットの論文を元にしました。

Relative State Formulation of Quantum Mechanics - Semantic Scholar

 

 


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